
恋愛体質が引き寄せた、どん底からの再出発

 
                        「お前も鹿児島?」出会いはダル絡み
――まず始めに、みなさんが芸人になったきっかけをお聞かせください。
折田: 中学校の時に野球部の先輩が漫才をしていて、それをかっこいいなと思って野球部のチームメイトと漫才を始めたのが最初ですね。高校に入って、野球部内で誰か探していて、それで松山に声をかけました。
――松山さんが一番面白そうだった?
折田: いや、これは、中学の時にお調子者同士で組んで失敗したから「今度はもっとおとなしいやつと組もう」と思って。
――おとなしそうな人の中で、松山さんが一番面白そうだったと。
松山: 違います!これ、僕、3番目に誘われてるんですよ。
折田: それは…はい、そうです。でもまぁドラフト3位のほうが結果残すとかよくありますから!
――強引に通した。松山さんはもともとお笑い好きだったんですか?
松山: いえ、まったく。たまに『めちゃイケ』を見るくらいでした。
折田: お笑い知らなすぎて、笑い飯さんの「奈良歴史民俗博物館」のネタで練習したとき「折田!こんなネタ考えれるの!?すごい!」って興奮してたよな。
松山: 折田のこと天才だと思いました。
――初めて聞くパターン。ともやっぷさんはどうでしょう?
ともやっぷ: 小さい頃からお笑いは好きで、高校3年生の夏に、塾の同級生とコンビを組んで「ハイスクールマンザイ」に出たら鹿児島県予選で優勝できたんです。それがきっかけで、東京の大学に行きつつ、お笑いをやるのもいいかなって思いはじめました。
――優勝はすごい。学校では人気者でした?
ともやっぷ: 全然、むしろ冴えない方です。文化祭で陽キャたちがバンド組んでる中、漫才で勝負してました。「面白さで戦える」を経験できたのは大きかったかもです。
 
                    ――ところで、3人とも鹿児島出身っていうのは偶然ですか?
ともやっぷ: そうですね。こいつら(折田と松山)は同級生ですけど、僕は太田プロの養成所で出会いました。
ともやっぷ: 最初、自己紹介終わったあとに「お前も鹿児島?うぃー」みたいな感じで折田が絡んできたんですよ。
折田: 違うんです!たまたま同じ高校出身のやつも養成所に入ってて、松山含めて鹿児島が4人で固まってて。
折田: そこにまた鹿児島出身のやつがいたから、そりゃテンション上がりますよ。ともやっぷは大学で既に東京に来てたから全然テンション上がってなかったけど。
ともやっぷ: いや、上がってたよ。変な詰め方してくるから。松山は松山で「君たちメタンハイドレードでしょ?」とか言ってくるし。
松山: メタンハイドレードって、ともやっぷが組んでたコンビで、学生お笑い界隈では有名だったんです。それが養成所では「オールドパー」って名前に変わってて、学生芸人大好きだったからすぐ気付きました。
ともやっぷ: 鹿児島から出てきた集団に詰められてオロオロしてたら「おもんな」って去っていきました。
――それはタチが悪い。
折田: ちょっと!違うんです、松山が「学生芸人の中でもトップクラスのやつがいる」って言うから、どんなもんか探りに行ったら「ゔわゔわ…」ってなってたんで、正直相手じゃねぇなって思っただけで。
ともやっぷ: 最悪の出会いでしたね。でも養成所のライブでは僕らが常に1位で、ポテンヒット(折田と松山のコンビ)はずっと7位とか8位で低迷してました。
ともやっぷ: なのにマネージャーに媚び売って気に入られてたよな。
折田: 媚びてないって!一生懸命やってただけだから!
ともやっぷ: 養成所のとき、合同ライブの上位5組だけが、夏休みのお台場冒険王のライブに出れるってなって。こいつら7位なのにお台場まで見学来てたんすよ。
――やってますね。
ともやっぷ: 楽屋挨拶まで来てさ。でもマネージャーが「お前らのそういう姿勢、好きだよ」とか言う人だったんです。
折田: 当時、有吉さんの番組に養成所生が観覧で行ってたんですけど、僕らだけ毎週通ってました。1年間。出席率100%です。
松山: 内申点で事務所に所属しました。
 
                        折田さんは恋愛体質。トリオ結成秘話
――それではここから、トリオ結成に至るまでの話をお聞かせください。
                                        ともやっぷ:
                                        養成所時代はオールドパー(前のコンビ)が上だったけど、所属してから立場が逆転したんです。ポテンヒット(折田&松山のコンビ)が3年目でまさかのG1*まで行って。
(*G1:太田プロJr.ライブのランク制度。当時はG5が最下層でG1が最上位)                                    
松山: 一回売れたよね。
折田: 群青団地みたいになりました。
ともやっぷ: 女性人気のない群青団地ね。有吉さんの「お饅頭がもらえる演芸会」にも出てたし、一番悔しかったのは早坂営業(非吉本芸人による地方公演)に呼ばれた瞬間。こいつらもう芸人で食えちゃうじゃんって思いました。
折田: 早坂営業も内申点なんですけどね。太田プロの若手が1組だけ枠あって、宮下草薙さん、青色1号、ポテンヒットの名前が上がる中、「挨拶がちゃんとできるやつ」として行けることになったんです。
折田: 選ばれたことは嬉しかったけど「お前らは”挨拶”で選ばれてるから、ちゃんとしろよ」ってマネージャーから言われて。「挨拶で呼ばれたってなんだよ。面白いからだろ」って思ってました。
松山: わかりやすく天狗になってたね。
ともやっぷ: そのころのオールドパーは「G5の番人」になってて、鳴かず飛ばずで限界を迎えた4年目の終わりに解散しました。
折田: 僕らは僕らで、4年目に大スランプが来て、G5までゆっくり降格してました。
 
                         
                    ――かたや解散、かたや転落。正直、辞めたくなりませんでした?
折田: テレビも出れない、賞レースも結果が出ないで、しっかり辞めたくなってましたね。「来年準々行けなかったら辞めるか」の話し合いは松山としてました。
ともやっぷ: というのも、こいつ本当に恋愛体質なんですよ。
折田: この流れで恋愛体質の話するのキモすぎるだろ!
ともやっぷ: 絶好調だった3年目は、バイト先で出会った子と付き合ってて、4年目にその子が鹿児島に就職して遠距離になった途端に絶不調。で、フラレるっていう。
松山: 恋愛体質だから次の相手を見つけないとやっていけないじゃないですか。それで誘ったのがともやっぷだったんです。
折田: 恋愛体質やめて?
ともやっぷ: たしか元旦の朝だよな?フラレたの。その2日後の1月3日に「ちょっと話あるからサイゼ来て」って電話してきて、行ったら「ともやっぷ入れてパワーアップさせたいから一緒に組もう」って言ってきて。
ともやっぷ: 嬉しかったんですよ、自分の力が認められてるんだと思って。そしたら1本目のネタから女装させられて、その後も女子高生役とかお母さん役とかばっかり。
折田: 別にお前に元カノ重ねてないから!勘違いされるだろ。ともやっぷを誘ったのは、お笑いに夢中になるためですよ、カッコよく言わせていただくと。
折田: ポテンヒットも絶不調だったし、彼女にフラレていろいろ考えちゃうから、一人増やしてそんなこと考える暇がなくなるくらい忙しくしたいってのはありました。
松山: 仕掛けとか、今までとは違う新しいことをどんどんやっていこうみたいなね。
申年?猿顔?サルベージ?名前の由来
――紆余曲折あってトリオに。結成して付けた「サルベース」にはどんな意味が?
ともやっぷ: 3人で再出発するにあたって、どん底から這い上がっていくようなイメージで「サルベージ」にしようと思ってたんです。鹿児島は猿のイメージもあったし。
折田: 鹿児島の屋久島って「人口より猿が多い」って言われるくらいなんですよ。
ともやっぷ: そう、折田の顔も猿っぽいし。ただ、「サルベージ」で“沈没船”がイメージされるのは嫌だってことになって。
ともやっぷ: じゃあこいつら元々野球やってて「ポテンヒット」だったし、その流れから猿とベースボールくっつけて「サルベース」にするかっていう話に。
松山: 名前が決まって気付いたんですけど、ともやっぷと僕が申年でした。
――猿顔と申年ふたりでサルベース。ダブルミーニングですね。
折田: サルベースの理由、これでいいんじゃない?
ともやっぷ: 出た、折田の悪いとこ。こいつ、みんなで名前決めるときも「もう任せるわ」って感じで適当だったんですよ。
――それは良くない
折田: だって1ヶ月くらいずっと決まらないんですよ?せっかく3人で集まってもずーっと名前の話。早く3人のネタ作りたかったんですよ僕は。
折田: だから、名前はなんでもいいから早く動こうぜ、っていうスタンスでした。
ともやっぷ: なんでもいいって言っときながら「”鹿児島っぽければ”なんでもいい」ですからね。それも長引いた原因。
松山: 「むじゃき」とかあったよね。鹿児島のしろくまアイスのお店の名前。
ともやっぷ: あった!他にも1000個くらい候補が出て、でも全然決まらなくて。さすがに腹立って「じゃあもう“春はアケボンヌ”でいいよな!!」っブチギレました。
松山: 僕はめっちゃいいと思ってて、折田も「あーもうそれでいいよ」って言うから「春はアケボンヌ」で下北のライブにエントリーしたら、主催者に「名前変えろ」って真顔で怒られました。
折田: 結局、最後はそれぞれ良いと思った名前を1個ずつ出して、あみだくじ。
――そこまで悩んであみだくじ!3つの候補、覚えてます?
ともやっぷ: 「サルベース」と「むじゃき」と…あとなんだっけ?
松山: 漢字一文字で「鹿」。僕が選んだやつです。
ともやっぷ: 鹿って……いや、3人で「鹿」ってめっちゃいい名前だわ!いま考えたら。
松山: でしょ?結構「これ来た!」って思ったんだよね。
折田: いや、よくねーだろ!
ともやっぷ: まぁたしかに、センス系のトリオなら「鹿」もアリだけど、おれらには合わないか。結局、サルベースが一番しっくり来ますね。
 
                    アンケート「メンバーの好きなところ」
――ここからは事前のアンケートをもとに「メンバーの好きなところ」を聞いていきたいと思います。
ともやっぷ: これ楽しみだなぁ。
――まずは折田さん→松山さん。「怒らない、人を立てられる、悪口を言わない」。あと、「女性をまっすぐ好きになれる」だそうで。
松山: うわー!まっすぐ好きになれる、は嬉しいですね。
折田: これは本当に尊敬できます。学生時代、当時付き合ってた彼女のことを「毎日告白できるくらい好き」って言ってて、素敵だなって思いました。
ともやっぷ: 平子さん(アルコ&ピース)みたいな。ただ、「怒らない」はめっちゃすごいと思うけど、松山の場合は人に興味がないだけだからな。
折田: 何にでも怒れるともやっぷとは真逆。
ともやっぷ: おれは人に執着してるだけ。
――何事も一長一短ということで。で、折田さん→ともやっぷさんの好きなところが「面白い」「演技が上手」と。
ともやっぷ: お前まじで…昨日サルベース知った人でも言えることじゃん!
――ちなみに松山さんからは「適応力が高い」「実はイケメン」「声が大きくて器用」「アドリブが効くところ」だそうです。
ともやっぷ: 折田、こういうのだよ。
――いいですね、どんどんいきましょう。松山さん→折田さんは「努力家で仁義を重んじる」。あと、「声が大きい」。
ともやっぷ: 「声が大きい」はそんなに便利じゃねぇから。
折田: あと、そんなに褒め言葉じゃない。
松山: 好きなんですよ、声が大きいの。仁義に関しては、養成所時代、自分もお金ないのによそから借りてまでお金貸してたので。
――(それは仁義とは違うような…)
ともやっぷ: 折田はいつか仁義に殺されると思ってます。頼られたら見捨てられないやつなんすよ。
折田: 一番借りてたのお前だろ。
ともやっぷ: それはそう。でもさ、トリオ結成するときに家賃延滞してたから5万借りようとしたら「おれらもうトリオなんだから貸し借りはやめよう」ってなんか逆仁義発動したよな。
ともやっぷ: おれ、それで家賃払えなくて家出ることになったからね。
折田: 知らねーよ!!
――(全然進まない…)次!ともやっぷさん→松山さんの好きなとこ。「良くも悪くも平坦な人間だから、相談したり話し相手としてすごく助かる存在」と。
松山: うわー、嬉しい!
――これは本当に、いま一緒に過ごしてるだけでもすごく感じます。
ともやっぷ: 僕と松山は2人とも喫煙者なんですけど、一服の時間くらい気を使わずになんでもない話をしたいんです。だからいつも松山誘ってます。
ともやっぷ: 出番以外でお笑いするのは楽屋でいいんすよ。喫煙所ではただ「今週忙しいね〜」とか、「今日こんなことあったよ」くらいの会話がしたい。
折田: スイッチを切れる関係って、実は貴重だよな。
ともやっぷ: でしょ?それが松山の魅力なんです。
――良いですね。じゃあ最後、ともやっぷさん→折田さん。「人望があって情に厚い」「学生時代に人気者だった野球馬鹿が必死にネタを書いて努力する姿が尊敬できる」だそうです。
折田: …ごめんな、「面白い」とかしか書いてなくて。
ともやっぷ: まったくだよ。「好きなところは?」「努力家なところ」でも済ませられたけど、違うんですよ。別に努力家が好きなわけじゃなくて、”なんでこの人の努力が好きか”をちゃんと書きたかったんですよ。
ともやっぷ: 野球やってたクラスのお調子者が、今じゃ雨の日も風の日もネタを書いてる。それがもうカッコよすぎて。ストーリーがあるんですよ、好きの中に。
ともやっぷ: “努力”が好きなんじゃなくて、“この人の努力”が好きなんです。
――めちゃくちゃ熱い。
折田: 申し訳なくなってきた。もう一回最初からやります?
 
                    2030年のサルベース
――では最後、「2030年にどうなっていたいか」をそれぞれ想像して書いてもらいました。まずは折田さん。
折田: はい。
――「キングオブコントの常連になって、鹿児島の営業にも呼ばれたい」。あと「松山がYOUTUBEの個人チャンネルを開設しててほしい」とありますが、これは?
折田: 僕が松山をお笑いの世界に引っ張ってきたみたいなところもあるので、松山自身が本当にやりたいことをYouTubeとかでやって、ちょっとでもお金を稼げるようになったら嬉しいなって。
――すごく良い。それを受けての松山さん。「KOC優勝でテレビに引っ張りだこ。折田・ともやっぷの個人の仕事が増える。時間とお金に余裕ができたら、ふらっと海外にバックパッカーで旅したりする生活ができたら最高」だそうです。
折田: おーだいぶ近いね、お互い書いてること。
ともやっぷ: (うつむき、手で顔を隠し始める)
折田: ともやっぷも同じようなこと願ってたら泣いちゃうね。ボケたら冷める。
――じゃあいきますね。ともやっぷさんの回答、「賞レースで注目を集めて折田が見つかること」。
折田: え、めっちゃ嬉しい。
――続きます。「そのバーターで仕事をもらい、バイトを辞め、なにもしなくてもお金が入るシステムを構築したら、毎日パチンコに行きたい」だそうです。
ともやっぷ: ボケちゃったぁ〜〜!!
折田: しかも中途半端に。松山出てこないし
ともやっぷ: んー、まずは折田が見つかることが大事だなって。トリオだと、一人売れたらもうひとり、っていうパターンが多いから。もし折田の次に松山が売れることになったら、そのときはゴメンだけど、おまえらの稼いだ金でパチンコに行きます。
折田: おれがリンダカラーのDenになって、どっちかがりなぴっぴに、ってこと?
ともやっぷ: そう。まつぴっぴのときは俺がパチンコやらせてもらうし、やぷぴっぴのときは松山がYouTubeとかバックパッカーやればいいし。
折田: やぷぴっぴってなんだよ。でも、3人の売れ方を想像するの楽しいな。
――そのためには折田さんが売れる必要がありますね。
ともやっぷ: そう。賞レースで結果出した後は、折田がどうにかしないといけないですよ。フロントマンかつキャプテンとして、おれと松山を巻き込んだ責任取ってもらわないと。
 
                         
                    ――そういえば、さっきインタビューしてたモシモシさんが、「ライブの平場でやる”アレ”、気持ち悪いから止めてほしい」って言ってました。
折田: 喧嘩のくだりですかね、気持ち悪いってなんだよ。
――ちなみにどんなのですか?
ともやっぷ: ここでやるの恥ずいな。
松山: (スッと立ち上がって)恥ずいじゃねーだろお前、せっかく話広げてくれたのにさ。
ともやっぷ: あ?なんだよ?(スッと立ち上がる)
折田: お前ら喧嘩すんな、ちょ、やめろって…(二人の間に挟まれてもみくちゃにされる)
折田: (つり革に掴まるポーズで)「中央線朝7時ー」
――なるほど
折田: 「なるほど」やめてください!
                                    ともやっぷ:
                                    おい、松山にやらせたんだから、ちゃんと喧嘩しろよ
(わちゃわちゃした後…)                                
折田: (松山が押した勢いでともやっぷの丸めた背中に寄りかかり、そこから起きて)「倒れるだけで腹筋ワンダーコアー♪」
ともやっぷ: これ新作です。
――こっち好きです
折田: ありがとうございます。えっとですね、僕らに付いてくださってるのが、ダチョウ倶楽部さんのマネージャーなんです。
折田: それで、以前ご一緒する機会があって「トリオ芸を作っていけ」とジモンさんからたくさん教わったので、「こういうことを僕らはやっていくんだ」という意志を込めてやってます。
ともやっぷ: ライブで全然ウケないですけどね。でも続けることが大事だと思うので、ウケるまでくじけずに続けていきます。
【編集後記】
全員が鹿児島出身のサルベース。けれど、この3人を一言で括るのは難しい。仁義に厚い折田さん、情緒が満ち溢れているともやっぷさん、静かに寄り添う松山さん。 三者三様に見えて、でも確かに同じ地熱でつながっている。その姿はまるで、噴火もすれば穏やかさも見せる桜島のよう。いつの日か、地元・鹿児島でも愛される日が来ることを願って、今後も応援し続けていきたいと思います。
 
                    
 
                             
                                     
                             
                             
                             
                                     
                            