
大喜利配信から始まった「リンゴゴリラ」の歩み

 
                        盲目のR-1王者がくれた覚悟
――まずは、芸人になるまでの経緯をお聞かせください。
貫(ぬき): きっかけ自体は、駒井が誘ってくれたのが大きいです。ただ、決定打になったのは濱田祐太郎さんのR-1グランプリ優勝でした。
貫: 実は僕、紫外線アレルギーで。外に出るとすぐ火傷みたいに赤くなる体質なんです。普通の人よりめちゃくちゃ早く日焼けするというか。
――紫外線アレルギー、初めて聞きました。それって今も?
貫: 今もです。
――それは…辛いですね。
駒井(こまい): 暗いわ、診察来たんか。
 
                    ――失礼しました。
貫: ええやろ別に。でも当時は「外歩くロケとか一生無理やな」と思って、芸人を目指すのも諦めてたんです。そんなときに盲目の濱田さんが優勝して、「言い訳できへんな」と。あの瞬間、“関係ない”って思えたんですよね。
――道が拓けたと。良い話。それでは続いて、駒井さんが芸人になるまでの経緯もお聞かせください。
駒井: 僕は小さいころからお笑いが大好きで、保育園の文集には「しょうらいのゆめはまんざいし」って書いてました。
駒井: とはいえ普通に大学出て働いてたんですけど、30歳を超えたあたりで「このまま人生終わるの怖いな」って思いはじめて。32歳で前職を辞めて上京しました。
――たしか前職はバスの運転手でしたっけ?
駒井: そうです、5年くらいやってました。32歳で辞めて、33歳から太田プロの養成所に入ったという感じです。
 
                        生主(なまぬし)とリスナー。
出会いは大喜利配信
                                                            ――では次に、お二人の出会いと結成についてお聞かせください。
駒井: はい。僕がバスの運転手をしながら、ニコ生(ニコニコ生放送)で大喜利の配信をしてたんです。そこに来ていたリスナーが貫でした。なぜか第1回からずっと見てくれてて。
――すごい出会い。貫さんはどうやってその配信を見つけたんですか?
貫: 当時は20歳で地元の福岡に住んでたんですけど、ずっとネットの海をさまよってたんです。大喜利配信を片っ端から探してて、たまたまこいつの初回に当たったっていう感じですね。
駒井: 毎日配信してたけど、毎日見に来てましたからね。
貫: 面白かったからな。
駒井: それはありがとう。で、2,3ヶ月後に他のリスナーも含めて「実際に会ってみようか」ってなって、福岡でオフ会を開いたんです。
――いいですねぇ。初めて会ったときはどうでした?
駒井: 最初こいつ、「メガネ4つかけて登場」っていうボケをかましてきたんです。
貫: こういう話になると毎回言うんですよ、これ。
駒井: そら言うやろ。
――相当気合が入ってたと。貫さん的には初対面の印象、どうでした?
貫: 覚えてるのは、こいつのツッコミですね。街中にあった大きな栄養ドリンクの看板に「タウリン1000mg配合」って書いてあって、「少なすぎるやろ」ってツッコんでたんです。それを見て、純粋に「すご」って思いました。
駒井: 「このサイズ感にしては少なすぎるやろ」みたいなね。
駒井: いま思い出したんですけど、『火花(Netflix)』の話だけはめっちゃ合いました。二人とも好きすぎて何周もしてて。お互いカッコいいと思うものが似てたのは、仲良くなれた理由のひとつやと思います。
 
                         
                    ――なるほど。ではその流れで、コンビ結成の話もお願いします。
駒井: ニコ生の大喜利配信は半年くらいで終わったけど、その後も何人かとつるんでて。その頃には貫も仕事辞めて大阪来てたから、よく集まって飲んでたんですよ。
駒井: で、ある日の飲み会で、貫が「吉本入るか」って別のやつを誘ってたんです。僕の目の前で。
駒井: なんかそれ見てたら「ここ(二人が)がお笑い行くのズルいな」って思ってしまったんで、その夜にLINEしました。“よかったら一緒に漫才しないか”って。
――他の人に貫さんを取られたくなかったと。
駒井: まぁ「一緒にやるならコイツやろ」とは思ってました。オモロイし、他に当てもないし。
貫: 僕は僕で、当時「なんかせなヤバい」って焦りがあって。仕事辞めて大阪来たのもそうだし、できもしないシンセサイザーを20万円で買ったりとか。
貫: そんなときに駒井が誘ってくれたから、芸人になったんやと思います。
駒井: いや、めっちゃ喜んでたやん。
貫: は?なにが?
駒井: LINEで誘ったとき「よっしゃ!!!」って返してきたやん。
貫: …その記憶、ちゃうと思うねんけどな。
しりとり?人類の進化?コンビ名に隠された(意外と)壮大なテーマ
――続いて「リンゴゴリラ」という名前の由来についてお聞かせください。
駒井: 養成所に入る前から、二人で毎週ラジオを録ってたんです、2年くらい。その中で「しりとりの最初って人類の進化と同じ流れだよな」という話になって。そこから取って「リンゴゴリラ」にしました。
――すみません、ちょっと補足をお願いします。
貫: まず、人類の節目にはいつもリンゴが転がっているんですよ。人の“知”を目覚めさせたアダムとイブの知恵の実。木から落ちるリンゴを見て重力の法則を発見したニュートンの万有引力。音楽と文化の地平を切り拓いたビートルズのリンゴ・スター。そして、現代のテクノロジーを象徴するApple社。
貫: ラジオでそんな話をしていて、「リンゴ」という果実が、いつの時代も人の進化や創造の起点であることに気づいたんです。
貫: そこから「しりとりの初手になりがちな”リンゴ、ゴリラ”も人類の進化と重なる」っていう話になって。
――というと?
貫: リンゴ(禁断の果実)は“知の目覚め”。ゴリラ(類人猿)は“人類の原点”。そしてラッパ(道具の発明)は“文明の始まり”。
――おぉ……
駒井: そう、そんなことを貫に言われて、たしかになと。それでいつか「リンゴゴリラ」という一言だけでしりとりが始まるくらい、有名で象徴的な存在になれたらと思って名前をつけました。
――そんな野心と遊び心を込めた名前だったとは。
貫: しりとりの“リンゴ、ゴリラ”っていう無駄なターンを省略できたらカッコいいじゃないですか。
駒井: 響きも可愛いしな、リンゴゴリラ。
 
                    お互いを許し合う“さもしいデブ”
――ここからはざっくばらんに。相方の好きなところってありますか?
貫: 好きなところは、明らかに芸人を始めるのが遅すぎるところ。よう32歳で仕事辞めれたなと。そこからメガネ4つの小僧を相方に誘うって、どういうつもりなんやろって今でも思ってます。
――だそうです。どういうつもりだったんですか?
駒井: いやもう単純に、芸人やりそうなやつで一番おもしろかったから。年齢に関しても別に不安とかなくて、「こいつと芸人やったらどうなるんやろ」っていうワクワクが強かったですね。
――いいですね。では駒井さんから見た貫さんの好きなところは?
駒井: ネタが面白くて正義感があって人情派です。あと、寅さんっぽい。
貫: どこがやねん。
駒井: 後輩や友達に何かあったらすぐ駆けつける、みたいな。
――意外と兄貴。それではせっかくなので、相方の嫌なところも。
貫: なんというか、直る範囲の直してほしいのは無いです。ムカつく瞬間とかはもちろんありますけど、こういうやつって分かれば、そんなに気にならない。
――寛容。
貫: そんなことないです。僕も許してもらってる部分が多いので。お互いに許し合ってるから、そんな細かく言う権利がない。さもしいデブがさもしいデブには言えないってだけです。
――なるほど。対して駒井さんはどうでしょう?
駒井: 僕はけっこうありますよ。まず、清潔感がない。時間にルーズ。気分屋。あと、「面白いと思ったらやりすぎる」ところ。
――やりすぎる?
駒井: テンション上がって「これめっちゃオモロイ!」って言うとき、だいたいオモんない
貫: 言わんとしてることはわかる。たぶん僕、面白いと思う範囲が広すぎて伝わってないんですよね。
駒井: 共感性羞恥を感じるから、テンション上がりすぎるとこは見せないでほしい。
――聞くと見たくなっちゃうな。清潔感がない、というのは?
駒井: 「シャワー浴びる割には」ですね。こいつ、めちゃくちゃシャワー浴びるんですよ。遅刻するくらい。でも、にしては…なんですよね。
貫: これに関しては、一回シャワー浴びてない状態を見てほしいです。シャワー浴びない僕は“泥”なんですね。泥が間に合っても、泥が到着するだけで、僕を到着させるにはシャワーを浴びるしかないっていう。
駒井: だいぶマシになりましたけどね。
貫: ずっと誰が何言うてんねん。
駒井: あとは髭かな。長さを整えてほしいです。でも実際僕も、無いんですよ。嫌なところとか直してほしいところ。あえて言うとしたらってことです。
 
                    最後にこぼれた、ホントの気持ち。
――ありがとうございます。それでは最後に、今後の展望を教えてください。
貫: 芸人になったからには、最強漫才師の一角に名を連ねたいです。漫才という文化の中で、確かな爪痕を残せる存在になりたいと思ってます。
――力強い。駒井さんは?
駒井: 僕は、いじられキャラMCとして世に出たいです。街ブラロケとか朝の番組に出て、世間の皆さんに愛される存在になりたいです。ドラマや映画にも出てみたいので、交通事故とか不祥事を起こさないように心がけてます。
――今日は災難でしたね。
                                        駒井:
                                        マジで僕は悪くない!優先道路走ってたら飛び出してきて、アレは完全に警察が悪い。
(※実はインタビュー前、自転車で警察車両に接触し軽く怪我をしていた)                                    
駒井: でも改めて、いつ何が起こるかわからないから、日頃からコンプラとか意識せなアカンって思いました。
 
                         
                    ――だそうです。
貫: はい。素晴らしいです。
駒井: おまえ、興味なさすぎるやろ。
貫: なんでやねん。おまえなぁ…
貫: いいすか?最後に。相方の嫌なところありましたわ。僕って、自分が思ってる以上に感情が出せない人間なんです。だから今も、心から本気で素晴らしいなと思って言ったんですよ。
貫: ラジオでも相槌打ってるだけで「出た、やめろやそのテンション低いやつ」とか言ってくるんです。これはまじで直してほしい。
駒井: それやったらこっちも直してほしいけどな。
貫: ライブのときも、こいつがMCしながら台本見てるから繋いであげよう思って喋ったら「はい、そうやってまたスカす」って言うやん。
貫: あれだけはホンマにやめろマジで。
駒井: 全然伝わってこーへんからさ。なに、テンション低いことに対して言うのやめろってこと?
貫: ちゃうねん、低くないねん。多分お前以外みんなわかってるぞ、周りのやつら。
駒井: いや、こっちもキツいけどね。テンション上げてんのに下で来られたら。
貫: こいつが出したトークテーマに対して僕が食いつき悪かったらなんか言ってくるんですけど、大したもん出してないんですよ。そもそも。
駒井: ちょっとすんません。これ全部撮り直していいっすか?
――これはこれで面白いので大丈夫です。
駒井: まぁでも、こういう小さい火種は常にあります。お互い「いつでもやったるぞ」って気持ちでいるんで。
駒井: それも含めて”僕ららしさ”なんやって思うことにしときます。
【編集後記】
彼らと初めて会ったのは2022年、早稲田の地下にあるお笑いライブ会場で、僕らの主催ライブにエントリーしてくれたときでした。 デビュー1年目とは思えないツッコミの上手さと貫禄。そしてボケの感じが完全に好みだったので、すごく印象に残っています(貫さんの変な髭とか、駒井さんの前職がバスの運転手とか、そういうエピソードも含めて)。 あれから3年。リンゴゴリラがM-1で初めて3回戦に進出したことをXで知って、本当に嬉しかった。「3回戦なんて」と鼻で笑う人もいるかもしれませんが、3回戦に残るのは全体のわずか3〜4%。どれだけすごいことかってことだけでも覚えて帰ってください。 “リンゴゴリラ”はこれからも“ライブ”でネタを磨き、近い将来、3回戦のその先——“ブレイク”へと進んでいく。そんな、しりとりのように続く道の先を、これからもこっそり応援していきたいと思います。
 
                    
 
                             
                                     
                             
                             
                                     
                            