
拒絶から始まった
ターリーターキー物語


運命を変えた
養成所生のナンパ
――それではまず、芸人になるまでの経緯やきっかけをお聞かせください。
玉遥香(以下、玉): きっかけで言うと、彼氏と別れたことですね。大阪で普通に就職してて、付き合ってた彼氏に振られてヨリ戻そう思ったら新しい彼女いて「辛いー!」なって。もういっそ物理的に会えない距離に行こうと思って、女子校時代の友達と二人で東京に出てきました。
玉: それで、せっかく東京に出てきたから、何か新しいことを始めたいなと思ったんです。当時の彼氏が表に出るのを嫌がる人だったから我慢してたけど、本当はテレビに出たりとか、芸能活動をずっとしたかったんです。とはいえもう25歳で「じゃあ今から何ができる?」って考えたときに、もうお笑い芸人になろうかなって思いました。
――そこで芸人という選択肢が出てくるんですね。
玉: 出てきましたね。一芸もないし、アイドルは年齢的に難しいし、今から!ってなったら、やっぱり芸人さんかなと。大阪やったし、テレビで漫才を見るのが日常で、それこそ中学生の時は夜更かしして『オールザッツ漫才』を見てました。でも、まさか自分がお笑い芸人を目指すとは思ってませんでしたね。
――日常的にお笑いは身近にあったけど、目指すほどの憧れはなかったと。
玉: そうですね。まぁでも憧れがなくて良かったなって思います。「お笑い大好き!」とか「芸人めっちゃ憧れてます!」っていう人が辞めていくのをたくさん見てきたので。私の場合は「普通にお笑い好き〜」くらいで、いざ始めたらもっと好きになってった感じなので、今も続けられてると思います。

――なみさんはどういった経緯で芸人を目指すことになったのでしょうか?
なみはるか(以下、なみ): 私はもともとアナウンサーを目指していました。半年で20万円くらいかかるスクールにも通うくらい本気で取り組んでいたんです。でも、大学3年の夏にエントリーしたインターンに落ちてしまって。そこで不合格だと厳しいと聞いてたので、そこからはアナウンサー以外の道も視野に入れて就活を始めました。エントリーシート作りとかOB訪問を進めていくなかで「そもそも自分は何がやりたかったんだろう?」って改めてちゃんと考えることにしたんです。
――自己分析ってやつですね。
なみ: はい。それで、高校時代を振り返ってみた時に、元々お笑いが好きだったことを思い出したんです。クラスメイトと一緒に『M-1』とか『ハイスクール漫才』にも出てて。それで、『キングオブコント』の予選に出たときに、たまたま人力舎の養成所に通っている方に声をかけられたんです。「制服着てるけど、現役の女子高生?面白かったじゃん」って。なんかそれを急に思い出して「人力舎の養成所に入るのもアリかも」って思ったんです。
――養成所生のナンパがきっかけ、になるんすかね。面白い。
なみ: 今思うとたしかに。そこから相方探してコンビ組んで、フリーのライブに出ようってことになったんです。事務所に入る前からやってた方が得かなと思って。そしたら直前に「やっぱりお笑いは無理かも」って言われて。コンビ解消してバイバイかと思ったら「実は今、アイドルに誘われてて枠が一つ空いているから一緒にやらない?」っていう。急展開すぎて迷ったんですけど、特技も経験値もないまま芸人になるのはよくないと思って、一旦アイドル活動をやってみることにしました。
――流されやすいのか、意識が高いのか。いずれにせよ行動力が凄いです。
なみ: 地下どころか地底アイドルって感じでしたけどね。4人グループなのに観客が2人だけとか。本っ当に人気がなくて辛かったです。結局、大学4年の12月から5ヶ月くらい続けたんですけど、しんどくて辞めました。
――心中お察しします…そこから養成所に?
なみ: そうですね。準備だけは進めていたので、アイドル辞めた翌日にJCA(プロダクション人力舎の養成所)に入りました。
ひと筆書きの「うなぎ」を書く女
――ではここから、お二人の出会いについてお聞かせください。
玉: 出会いは養成所ですね。70人くらいの同期が2クラスに分かれて、私たちは「月・火・水」の方でした。最初の2週間くらいボーっと授業受けてたら、先生から「早くコンビ組め!」って怒られて、みんな慌ててコンビを組み始めていったんです。当時は男女コンビがあまり浸透してなかったし、女性が少ないこともあって、私は誰ともコンビ組めずにあぶれてました。「どうしようどうしよう」と思ってパッと見たら、なみちゃんもあぶれてたんです。周りから「もう二人で組めばいいんじゃない?」って言われて、じゃあ組みましょうかって。
なみ: 本当は男女コンビで漫才がやりたかったんです。でも男性はつかまらないし、ピンは嫌だったし。結果的に「余ってるから組もうか」という流れに…。
玉: ホンマにそうやった!
なみ: でも私、最初は玉のことをあまり信用してなかったんです。ネタ見せの授業でノートに感想を書くわけですよ、一丁前に。「振りが分かりづらい」とか「オチが弱い」とか。みんなそうやって「っぽい」ことを書いている中、隣の玉のノート見たら「このコンビ、おもろい♡」って。ハートマーク付きですよ?笑
玉: わかんないんで、はい。
なみ: 数日後にまた見たら、一筆書きで「うなぎ」って書いてて…
玉: あっはっは!私「うなぎ」書くのめっちゃうまいんですよ。
なみ: そんなやつと組めるわけないじゃないですか?二人は無理、せめてもう一人…と思って探したてら、ひとりポツンとあぶれてる女の子がいたんです。もう誰でもいいから「この子だ!」と思って、「あの、まだ組んでないなら一緒に組みませんか!」って声をかけて組むことになりました。


――「玉さんと二人だけは嫌」っていう必死さがすごく伝わってきました。
なみ: 当時の玉って、今よりもっと痩せてて綺麗で、養成所にショートパンツとピンヒールで赤いマニキュアつけて来るような子だったんです。
玉: ギャルだったんで!でもうちの相方も、唯一マニキュア塗ってて、二人で「ええ色やなぁ」「なに塗ってるん?」「そのトップコート私も持ってる!」とか盛り上がって。
なみ: あったあった!組む前だね。女性の同期は9人いたんですけど、みんなが女の要素を削ぎ落としていく中で、玉は…(目線を送る)
玉: バリバリ女でした。わっはっは!ダンスの授業で裸足になるんですけど、唯一うちらだけ爪キラッキラやったもんな!
三人目のターリーターキー
「あきちゃん」の存在
――楽しそうに話してるお二人を見て、本当に仲が良いんだなと思いました。
玉: 今でこそ、ですよ。最初はヒドかった。私もなみちゃんも、もうひとりのメンバーの「あきちゃん」とばっかり喋ってて。あきちゃんの家でネタ合わせして、あきちゃんの予定が合わない日はネタ合わせも中止、みたいな。今考えるとめちゃくちゃ重要なバランサーでしたね。
なみ: あきちゃんがいないと喋れない人というか、ちょっと怖いというか。
――まじすか。全然想像つかないです。
玉: お互い、全く心を開いてませんでした。でもですね、あきちゃんが養成所を辞めたんですよ。養成所生の初ライブが1ヶ月後に迫ってるときに。「あきちゃんが辞めるらしいで、どうする?」ってことで初めてなみちゃんに連絡しました。二人だけでまともに話したのもそれが初めて。
なみ: それまでは喋りたくもなかったくらいでしたから。
玉: 言っとくけど、私も同じ気持ちやったからね!!でも、来月初舞台やしそんなん言ってられなくて。めっちゃ覚えてるんですけど、雨の中、巣鴨のマンガ喫茶の前でなみちゃんに「どうする?解散する?」って電話したんです。そしたらなみちゃんが「いや、まだ二人でやりたい」って言ってくれたんですよ。
なみ: ごめん、全然覚えてない…
玉: うそつけ!!!
なみ: いや、電話したのはすごく覚えてるよ。派遣のバイト帰りで有明にいて、ゆりかもめ沿いを歩きながら電話してた。それは覚えてる。でも私から「まだ二人でやりたい」なんて言ったかなぁ。
玉: 言った言った。アカンでそういうの!『玉と二人なら可能性あるから私はまだやりたい』ってハッキリ言ってたよ。
――やっぱり仲良しで安心しました。ちなみに「ターリーターキー」という名前は2人になった時に?
なみ: いえ、トリオの時から「ターリーターキー」でした。3人で名前決めようってご飯食べてたお店がカレーの『ターリー屋』で。ターリーの語感が何かいいよねって。
玉: なみちゃんが「ターリーのあとにもう一個なんか付けたい」ってなって「ターキー」が出てきて。それでまた盛り上がった。二人でね。
――あきちゃんがいないとずっと喋れなかったのに、名前を決める時だけは二人で盛り上がったんですね。
玉: ホンマやな、なんでやろ。ボーリングで3回ストライク出すとターキーで、3人でストライク。ちょうどええやん!って。あきちゃんが抜けてコンビ名考える時に、よう考えたらあの時あきちゃん一言もしゃべらんかったし、まぁええやろ!もらおもらお!ってことでそのまま改名せずに続けてます。

不満爆発!相方に直してほしいところ
――時を経て仲良くなったお二人ですが、お互いの好きなところ・直してほしいところはありますか?
玉: なみちゃんの好きなところは、仕事終わりでも一緒に喋りながら歩いて帰ってくれるところです。嫌いなところは、その帰り際の切替が早すぎるところ。あれホンマに嫌。
なみ: 「嫌いなところ」じゃなくて「直してほしいところ」だよ?
玉: 間違えた、まぁええねん。例えば「今日の取材めっちゃ楽しかったな!」「じゃあ私はこっちだから」「OK、また!お疲れ〜」みたいになるじゃないですか。普通やったら。そろそろ話終わる雰囲気を出してからじゃないですか。なみちゃんは関係ない。急に「じゃあ!」でぶつ切り。ノータイム、余韻ゼロ。なんで?今までどうやって人と接してきたん?
なみ: 終わらないんですよ!立ち止まると。お互いお喋り大好きだから。あと、自分が予定を詰め込みたいタイプなので、次の予定が迫ってるからバツンと切ってるのはあるかも。
玉: 残酷な女ですよ。ぶつ切りされた後、いつもちっちゃい声で「えぇ…」って言うてます。お喋りを職業としてる人とは思われへんくらい切るの下手。
――めちゃくちゃ言いますね。なみさんはどうでしょう?玉さんの好きなところは。
なみ: 好きなところは、ネタ合わせでカフェに入ったときとか、いつも奥のソファを譲ってくれるところですね。本当にいつもありがとう。
玉: お店でもタクシーでも、奥座るのめんどくさいんですよ。
――それはwin-win。直してほしいところは?
なみ: 出番ギリギリまでタバコを吸うところです。
玉: なんでなん…
なみ: なんでなん?こっちのセリフだよ。やり慣れてるネタならまだしも、新ネタ前に「ちょっとひと吸い」って行くんですよ。しかもこれ、絶対ひと吸いで帰ってきませんからね。少しでもネタ合わせしたいのに。ようやく戻ってきたと思ったら今度はタバコ臭い。もう最悪。吸うこと自体やめろと言ってるわけじゃないけど、ネタ直前に吸うのはマジでやめてほしい。
玉: 反論の余地もございません。
なみ: いつも出番前に「玉さん居ないけど大丈夫ですか?」ってスタッフさんから心配されるんだよ。あれもすごく嫌。
玉: 逆の立場やったら私も絶対イヤ!善処します…
なみ: あと、さっきの「話をぶった切る」で思い出したけど、私だって背中を見送ることもあるんですよ。それで以前玉と帰ってて、駅の近くで解散したのに駅に向かわず違う方に行ったんです。気になってちょっと追いかけたらパチンコ屋に入っていきました。二人で歩いてる時に通り過ぎたパチンコ屋ですよ?意味わかんないじゃないですか。なんで私にフェイクかけるの?
玉: 理由は2つ。1つは、いつもパチンコに行ってると思われたくないから。もう1つは、なみちゃんとの盛り上がってる話を切りたくなかったから。喋ってたら駅まで着いちゃったんで、戻ってパチンコ行きました。
なみ: 見送ってくれたってこと?
玉: 「ここまで来んでええのに」って絶対なるから、気を遣わせないようにスッと曲がる。優しさよ。
なみ: いや、たしかに盛り上がってたけど、私も私で本来の道から遠回りしてるのよ。

欲しいのは賞レースの結果と
”芸人”として生きていく自信
――最後にお二人が熱くなれることについてお聞かせください。
玉: やっぱり賞レースですね。例えばパチンコで10万勝ちましたとか、好きな人とデートが決まりましたとか、そんなことよりも確実にアドレナリン出てる気がするんですよ。だからこそ(芸人を)続けてる、みたいなところはあるんじゃないですかね。
なみ: 特に『THE W』ね。
玉: そう!『THE W』の準決勝って、結果が出るまでに2日かかるんですよ。待ってる間にどんどん受かりたい気持ちがデカくなって、ほんまにしんどくなるんですよ。こんな感覚になるのはたぶんこれ(芸人)しかないんちゃうかなって思います。
なみ: 4年前(2020年)に決勝行って以来行けてないからね。行きたいよね。
玉: 決勝行って結果残せたら、自分の中で芸人として食っていけるかもしれないって確信持てるんですよ。もうすぐ10年経つし、そろそろバイト辞めて芸人一本で食えてもいいんじゃないかと。
なみ: ありがたいことに仕事はずっといただけてるんですけどねぇ…ずっとお金ないよね。
玉: ホンマそう!!これ言ったら「仕事あるだけええやん」って言われるかもしんないですけど、忙しさと給料が見合ってないんですよ!飲みに行く時間もないです。バイトしないと家賃払われへんから。「そういう人がもうすぐ売れる」ってよく聞くけど、それこんなに長いんか?って。これ載せれるかわからないですけど、ずっっと8万足りない。
――8万…かなりリアルな数字。
玉: ホンマにそろそろ売れたい。不安なんですよ、食えてないので。だからこそ賞レースで決勝行って、例えばそれで知名度上がって。「この人たち面白いやん」って呼ばれるようになったら、初めて芸人として自信持って生きていけるんだと思います。


――めちゃくちゃ響きました、ありがとうございます。時間的にそろそろ終わりなのですが、なみさんが熱くなれるものを聞けてませんでした。なんかインタビューに残しておきたいことありますか?
なみ: やっぱりメイドカフェですね。
玉: ええねんもうその話。カットせい!
なみ: なんでよ!まぁ長くなるからね。さっきの話じゃないけど、仕事で大変なときとか賞レースの結果が気になる時とか、そういう時こそメイドカフェにたくさん通って忘れに行ってます。仕事とプライベートは完全に別物だと思っているので。切り替えはかなり大事にしていますね。
玉: なみちゃんのそういうサッパリしてるところが好き。生き方が上手。意外と私の方がジメジメ悩むので、いつも励ましてもらってます。
なみ: 考えてもキリがないことは考えないようにしてるだけですよ。逆に私がミスして凹んでる時は「全然大丈夫やで、いけるいける」って元気づけてくれます。
【編集後記】
今回の撮影テーマは「公園ランチ」。コンビニで買い出しをすると、真っ先にお酒コーナーへ向かった玉さん。お会いするのは初めてだったけど、想像通りのキャラクターで最高でした。「相方に直してほしいところ」の話題では、お互いへの不満をぶつけまくってたけど、それができるのは本気で信頼してる証だと思いました。最後に泣く泣くカットしたなみさんのメイドカフェ話を、もっと大きなところで聞ける日を楽しみにしてます!
