
ふたりの再始動。

うちま&つげ。
それぞれの原点
――それではまず、芸人になろうと思ったきっかけや経緯をお聞かせください。
つげ: 大学時代、将来について考えたとき「成功したら一番カッコいいのは芸人だな」と思って芸人になりました。
――理由がカッコ良すぎる。学生時代からお笑いが好きだった?
つげ: ですね!とにかく人を笑わせるのが好きで、わざと遅刻して違う教室入って「すみません!」とかやってました。あと、「おもろい後輩がいる」って噂を聞いたら戦いを挑みに行ってました。
内間: 戦うの?お笑いバトルみたいな?なんだよお笑いバトルって。
つげ: どっちがおもろいか勝負するんですよ。例えば、金玉握って「たこ焼き!」ってやる後輩がいたら、こっちは全体を掴んで「トンボ!」って返して。それで俺のほうがウケたら俺の勝ち!みたいな。
内間: すごいなぁ。
――お調子者で目立ちがり屋だったと。
内間: 今のまんまじゃん。
つげ: わはははは!文化祭で全校アンケートを取ったら「一番おもしろいと思う人」ランキングで僕がダントツ1位だったんですよ。しかも、僕が文化祭の実行委員だったので、その結果を自分で発表して。「一番おもしろいと思う人の1位は……僕でした!」って。
――すみません、このままだとつげさんだけでインタビュー終わっちゃうので…
つげ: 勝手にエピソード喋ってすみません!聞いてくれるから気持ちよくなっちゃって。やろうと思えばあと5倍くらい喋れますけど。
――次!内間さん!芸人になったきっかけや経緯を教えてください!
内間: 僕はおぎやはぎさんですね。高校のときに初めてネタを見たとき、今までのお笑いとは違った面白さにめちゃくちゃ衝撃を受けて。そこで芸人になろうって決めました。
――それで人力舎に。もともとお笑いが好きだったという感じでしょうか?
内間: そうですね。小さい頃からネタ番組を全部録画するくらいお笑いは好きでした。だから小学校の頃はけっこうお喋りで、それこそクラスの中心人物みたいな感じだったんですよ。でも中学で思春期入ってスカシ始めちゃって。
内間: そこからつまらない学生生活を送ってて、そんなある日におぎやはぎさんのネタを見て。めちゃくちゃ面白くて、次第に「おしゃべりで楽しかった本来の自分に戻りたいな」って思い始めたんです。抑圧された生活を送ってつまらなく過ごすより、好きなことをやって生きようと。そんな感じでお笑いの道に進みました。
内間さんが語る、空白の1年
――うちまつげ結成を語るうえで欠かせないのが「ういろうプリン」の存在になると思うので、ここは少し分厚めに。
※ういろうプリン: うちまつげ結成前に内間さんが活動していたコンビ。2012年「漫才新人大賞」優秀賞、2013年『THE MANZAI』認定漫才師。芸人評価の高い実力派漫才コンビだったが、2021年解散。
――解散後、うちまつげ結成まで約1年。この「空白の1年」についてどうしても聞いておきたいです。
内間: あの期間は…配達のバイトばかりでした。起きて、働いて、寝る。それだけの毎日。解散までは毎月30本以上のライブに出ていたのが、急に全部なくなって。
内間: 朝起きても「今日は何をしたらいいんだ?」ってなるんです。ネタを考えなくてもいいし、劇場にも行かなくていい。じゃあ働くか、と。
内間: UberEatsって、自分の意思で行くか行かないかを決められるんですけど、それでもちゃんと行ってましたね。偉いですよね。
内間: そもそも「1日4時間以上は働けない体質」だと思い込んでいたのに、平気で9時間くらい働けたんです。おれって意外と働けるんだな、って嬉しくなってました。まぁ、やることがなさすぎて行くしかなかった、っていうのもありますけど。
内間: でもそのおかげで、ずっと滞納してた家賃70万円を完済できて、風呂なしアパートから引っ越せたんです。あのときは嬉しかったですね。人類はもっと、自宅に風呂がある幸せを噛み締めたほうがいいですよ。
内間: ただ、慣れってのは怖いもので。新しい家で初めて風呂に入ろうとしたとき、200円を握りしめてたんですよ。自分の家で。怖くないですか?
――コインシャワー生活が長すぎて。
内間: はい。財布の中にできるだけ100円玉を貯めておく癖も、しばらくは抜けませんでした。
内間: 少し話が逸れましたが、この頃、人生で初めて“お金に余裕がある”という感覚を持てていました。買いたい時に買いたいものが買える。服をデザインで選んだのは久しぶりでしたね。
内間: お気に入りのコーヒー豆を買って、自分で挽いて飲む。これが”豊かさ”か、って。こうやって暮らすの、超幸せじゃん、って。
内間: でも、どうしても諦められなかったんです。漫才だけは。この気持ちを無視して生きていくのは、自分の幸せじゃない。他のことは全部なくてもいいから、漫才だけは突き詰めたい。そう思っていました。
内間: そんな中で、モグライダーやウエストランドが次々とM-1決勝に進出したんです。
――モグライダーさんやウエストランドさんは、同じライブに出ていた仲間という感じでしょうか?
内間: そうですね、同世代の仲間たちです。だから決勝行ったときは嬉しかったんですけど、「悔しい」っていう気持ちの方が大きかったです。
内間: 同時に「あ、悔しいんだ」って気付きました。「まだ戦いたい気持ちがあるんだ」って。じゃあ、もう一回やるしかないかと。
――このまま本にしたいお話です…。ではここから、どうやってつげさんが出てくるのかを。
内間: ありがたいことに、声をかけてくれる方が何人かいたので、お試しコンビで漫才をやってたんですよ。でも、全部しっくりこなくて。
内間: 気付いたんです。これから心機一転やっていくのに、受け身じゃダメだと。自分から「組みたい人」を選ばないと何も変わらない。そこで、つげに声をかけました。
――(照れくさそうにソワソワするつげさん)
つげ: ちょっと前から、恥ずかしいなぁと思って聞いてました。
内間: そろそろ来るだろうなって?つげのことはずっと面白いと思ってたんですよ。出会った初日のこともはっきり覚えてます。
内間: 『バカ爆走』っていう事務所ライブがあって、つげは当時まだ養成所の生徒だったんですけど、優秀だったから舞台に出そうってことになったんです。そのとき楽屋で少し喋ったんですけど、まぁお喋りで。パッと空気が明るくなって「何か素敵な人間がいるなぁ」って感じたのを覚えてます。
つげ: うははははっ!懐かしいですね!たしかその日、急遽出ることになったから、リュック背負ったまま「いま到着しました!」みたいなボケをしたんですよ。
つげ: さらに調子乗って、持ってたポカリで内間さんの頭を「ポカリ!」って叩いたらめっちゃスベりました!わはははははっ!
「え、おれですか?」熱を呼び覚ます1本の電話
――ここからは、内間さんに誘われたときのお話をお聞かせください。
つげ: はい。僕は僕で「敏感ファイル」というコンビを組んでたんです。ただ、結成6年くらいで限界を感じて、ほとんどコンビの活動はしてませんでした。
つげ: 解散せずに個人の仕事はズルズルと続けてるような状態で、心のどっかでは「自分が売れることはもうないんだろうな」とか。そんなことばかり思ってましたね。
――かなりネガティブな状態のときに、内間さんから声をかけられたんですね。どうでした?その瞬間って。
つげ: その日、先輩たちと飲んでたら内間さんから電話がかかってきたんです。そんなこと初めてだから「何事だ?」って思ったけど、とりあえず電話に出たら「漫才やらないか?」ですよ。
つげ: 「…え、おれですか??」って言ったのは覚えてます。内間さんも「急にごめんね、ちょっと考えてみて」で電話終わって。
つげ: 周りの先輩たちは「良かったじゃん!」って盛り上がってたけど、正直めちゃくちゃ怖かったですよ。何年もネタ作ってないし、こんな状態で内間さんとやれんのかって。
つげ: でも、家に帰って一人になって「もう一回M-1目指せるのか…」「もう一回、あの燃えるような気持ちで毎日漫才やれるのか」って思ったら、もう泣けてきちゃって。
つげ: これは芸人でいられる最後のチャンスだと思って、翌日内間さんに会いに行って「一緒にやりましょう」と伝えました。
――これは…グッときます。聞いてて思ったんですけど、いきなり「コンビ組もう」になるんですね?もしこれが恋愛だったら、連絡取り合ったりお出かけしたりを挟むのかなって。
つげ: お試しで組むのが「付き合う」だとしたら、いきなり「結婚しよう」って言われたようなもんですよ。
内間: これに関してはですね、いろんな人とお試しで漫才やったから、ですね。
内間: お試しで1回漫才したところで、分かることなんてひとつもないんですよ。結局、生涯通してやる覚悟があるかどうか。そういう思いで声をかけました。
つげ: いやぁ、嬉しいですよこれは。内間さんのことは「ひとつ上のステージにいる憧れのおもろい兄さん」だったので。僕のことなんて眼中にないと思ってたし、「なんでつげ?」って思った人もたくさんいたでしょうね。
――それでもつげさんが欲しかったと。
内間: なんというか、僕にないものを全部持ってる人だと思ってました。凸と凹がうまい具合にハマるような、ずっとそんな気がしてたんです。
良い関係の秘訣は、気遣いと生姜焼き
――以前どこかのライブで「良い関係を保つ秘訣は“お互いを褒めること」と言ってて、すごく素敵だなと思いました。
つげ: あぁ〜これは意識してますね。前のコンビでは僕がガンガン言うタイプだったので、いつもギスギスしてたんですよ。次の日になっても変な空気が続くとか。
内間: わかるなぁ。たぶん僕もつげも、相方に対して良くない態度を取ってきたから、その反省は活かしてるよね。
つげ: 笑顔でいるとか、ネガティブなことは言わないとか、相手の良いところを褒めるとか。すごく当たり前のことなんですけど。内間さんと一緒にやれたから気付けたことはたくさんあります。人柄がいいから、内間さんは。
内間: ありがとう。元の関係に戻る難しさをよく知ってるので、そうならないためにも「ありがとう」とか「ごめんなさい」とか、ちゃんと口に出すようにしてます。
――大人として当たり前の気遣いをしながら、良い関係を築いていくと。素晴らしい。
内間: 大前提、つげが人間として尊敬できるから、それが仲良くいられる一番の理由だと思います。
つげ: ありがとう!嬉しいなぁ。
――仲良いなぁ。他のコンビであまり見ないけど、しょっちゅう二人で飯行ってません?
つげ: それはアレですね、新宿のつるかめ食堂。「新ネタをやる前には美味しいものを食べよう」ってことで毎月行ってるんですよ。
――めちゃくちゃ良い習慣!これはどっちが言い出したんですか?
内間: これは僕です。毎月第二金曜日に『激漫』っていう新ネタ2本やるライブがあるんですけど、そのときにいつも行ってます。
内間: やっぱり新ネタってしんどいので、おいしいものを食べて、気分を上げてから挑んでるんです。
つげ: ちなみに内間さんは、新ネタ関係なくつるかめ食堂行ったら生姜焼き頼んでます。
内間: つるかめ食堂の生姜焼き定食は日本一うまいんだから。
THIS IS TSUGE ― 酒の美学。
――ここでファンの方から。「コンビを組んで印象は変わりましたか?」という質問をいただきました。どうですか?
つげ: めっちゃ変わりましたよ。僕の中で内間さんは“ストイックに漫才と向き合う人”というイメージだったんで、最初は泣き言とか言えないんじゃないかって不安でした。
内間: そんなふうに思ってたんだ。
つげ: そうですよ。けど実際は「疲れたなぁ」とか「明日の新ネタ不安だなぁ」とか、けっこう言うんです。それが嬉しくて。「あ、内間さんも弱音吐くんだ!」って。
――高めに見積もりすぎてたんですね。内間さんはどうですか?
内間: 意外と繊細なんだなって思いましたね。「あんなこと言っちゃったけど、嫌われてないですかね」とか聞いてくるんですよ。そんなこと気にするタイプなんだって。
つげ: どう見えてたんですか!
内間: 申し訳ない!低く見積もってた!あと、外でネタ合わせしてたら虫が飛んできて、つげが逃げ出して「虫ダメなんだ」って思いました。もっと荒くれ者だと思ってた。
つげ: 意外と怖がりなんですよ。大丈夫かな、ファンの人達がっかりしてないかな。
――(繊細だ。)たしかに、いつも芸人仲間と呑み歩いてる印象があるから、豪快な人っていう印象はありました。
つげ: 寂しがり屋なんですよ、僕。オフの日とか、昼から暇なときは片っ端から誰か誘って呑み行きます。まぁ大体断られて、最終的には越智(おちもり)と呑んでますけどね。
つげ: で、誘ったときに断られた人から「この前行けなかったけど今日はどうですか?」ってお返しの誘いが来るんですけど、僕は断るのが嫌なんですよ。
つげ: 向こうが「俺と飲みたい」っていう気持ちを、たとえ軽い気持ちだったとしても踏みにじりたくない。だから、どんだけ眠くても次の日が早くても、空いてたら行くようにしてます。
内間: カッコいいなぁ。10年くらい前、つげと何人かで呑んでたとき、深夜2時過ぎに僕が「明日朝からバイトだから帰るわ」って言ったことがあったんです。
内間: そしたらつげが「内間さん!明日行くバイトの思い出、死ぬ前にひとつも覚えてないですよ。でも、今日朝まで一緒に呑んだ楽しい思い出は一生覚えてると思うんです。朝まで行きましょう!!」って言われて。
内間: そういう思いで日々を生きているんだと知って、ハッとさせられました。もちろん、そのまま朝まで残りました。気持ちの良い男ですよ、つげという男は。
――ずっと聞いていたいけどお時間なので、最後に今後の展望を聞いて締めたいと思います。
つげ: 舞台でもテレビでも、需要があれば全部出たいですね。二人の番組がやれたら最高です!
内間: せっかく免許取ったので、ドライブしながらお喋りする番組とかね。
――それ見たいです!「喋るうちまつげ」ならぬ、「走るうちまつげ」。
内間: いいですねぇ。あとは、漫才で生きていけるベースを整えたいです。劇場で漫才をしてお金をもらって、「うちまつげを観たい」と思ってくれる人を増やしていきたいです。
つげ: たとえばM-1で結果を残してテレビに出られるようになっても、僕らは変わらない気がします。
つげ: 70歳過ぎても内間さんと会って新ネタ作って。「また生姜焼き食ってんすか!」みたいな。
内間: たしかに。そういう意味では「一生漫才をする」が共通の目標かもですね。
つげ: 漫才師としてウケて、心の底からめちゃくちゃ笑って生きていけたら本望です。
――ありがとうございます!最後に、何か告知しておくことはありますか?
つげ: 告知ですか?そうだなぁ、特にないけど…
内間: 毎月第2金曜日に『激漫』という5〜6組でそれぞれ新ネタを2本ずつ下ろすライブがあります。
つげ: 他のところはカットしても、これだけは絶対に書いてください!
【編集後記】
取材を終えて。世間では「気を遣わない関係が良い」と言われることが多いけど、お二人は“気を遣いながら良い関係を築く大人のコンビ”だと感じました。お互いを尊重し、信頼し、笑い合いながら漫才を積み重ねていく。その姿には、焦燥や競争ではなく、静かな覚悟と情熱が滲んでいました。きっとそれは、仕事としてだけでなく、生き方として“お笑い”を選んだ人たちだからこそ見えるものなんだなと。70歳を過ぎても、生姜焼きを食べながら新ネタを作っている二人の姿、容易に思い浮かびます。毎月第2金曜日の『激漫』をはじめ、今日も東京のどこかでうちまつげは漫才をしているはずです。読み終えたら、すぐにXをチェックしてライブに足を運びましょう。

