
ダジャレ界に革命を起こす
珍妙な見た目とワードセンス


軽い気持ちと隠しごと
――まずはジャンプさんから、芸人になるまでの経緯やきっかけを教えてください。
ジャンプ: もともと人を笑わせるのが好きで、大学時代はその特性を生かせるテレビ業界を中心に就職活動をしていました。そのとき「面接官が笑ったほうが受かりやすいかな」と思って面接でボケまくってたら、全然受からなくて。半年間就活を続けても結果が出ず「もしかして”笑わせたい気持ち”が強いなら、いっそ裏方じゃなくて芸人の方が向いてるのかな?」と思って芸人の道に進みました。
――思い切りが良いですね。かっこいいです。
ジャンプ: いやいや、しんどかったらすぐ辞めてもいいのかなーぐらいの軽い気持ちでしたよ。それで親に「芸人になりたいかなと思ってる」と電話で伝えたら「せっかく筑波大行かせてるのに、あんた何言ってるの?人生を棒に振る気?」とブチギレられました。芸人なんて負け犬の人生だ!とか、めちゃくちゃ言われましたよ。ちょっと言いすぎやんかと思いましたけど。うち犬飼ってたし。そんな犬を卑下する言葉を使うなよと。チャッピーっていう犬を飼ってたんですけどね。
阿部: チャッピーはいいから。進めて。
ジャンプ: 失敬島シーパラダイス。なんかそこまで言われると逆に説得してやろうと燃えましたね。原稿用紙20枚くらい用意して、誠意を文章にして伝えました。口下手だったので。結果、「とりあえず3年間様子見よう」と渋々ながら了承してくれました。
――お母さんとしては「3年くらいで芽が出なかったらちゃんと就職しなさいよ」の意味だったんでしょうね。
ジャンプ: そうだと思います。まさか14年もやるとは。はっはっは。まあでも『おもしろ荘』とか『有吉の壁』に出ると「息子さん出てたね」「頑張ってるね」って周りから言われるみたいで、コロッと態度を変えて今では応援してくれてます。
――それは嬉しい。
ジャンプ: (食い気味に)嬉椎名桔平で。ありがとうございますー
阿部: うるせー(笑)
ジャンプ: あ、話してて思い出しました、芸人になったきっかけ。就活するか芸人になろうか悩んでいた時、同じクラスにユキちゃんっていうめっちゃ可愛い子がいたんですよ。その子と再会した時に「加藤、髪切った?」って言われて「加藤だけに、カットしちゃったよ〜ん」って言ったら、めっちゃ笑いながら「芸人になれば?」って言われたんです。こんな可愛い子が言うならイケるかも、ってのは思いましたね。
阿部: 本当に軽い気持ちだったんだな
ジャンプ: 僕は阿部さんと違って、小さい頃から芸人に憧れていたわけでもなく、お笑いにも詳しくもなかったですから。厳しい家だったので夜のバラエティは禁止されてて、唯一見せてくれた「世界まる見え」に出てた人くらいしか芸能人は知らなかったくらいで。事務所を選んだのも、たまたま募集期間が近かったという理由ですし。
阿部: 僕らが養成所に入った年あたりに東京03さんが『キングオブコント』で優勝してて、同期がその話で盛り上がってる中、ジャンプさんだけポカンとしてました。

――それでは次に、阿部さんが芸人になるまでの経緯を教えてください。
阿部: 小さい頃からテレビっ子で、歳の離れた兄と『いいとも増刊号』とか『笑う犬』のようなバラエティ番組ばかり見ていました。放課後に「昨日のあのシーン面白かったよね」って友達と話したり。そのグループに小中一緒だった友達がいて、そいつが「お笑いブームも来てるし、芸人やらない?」と誘ってきたんです。
阿部: 将来の夢も特になかったし「なんかいいかも。やってみようかな」と思いました。その友人とは別々の高校だったのですが、放課後は毎日一緒に遊んだりして。いよいよ卒業間近で「どこの養成所に行く?」みたいな話になったとき、「俺らには人力舎が合ってるんじゃない?」って。その友達が言うには、「クラスの中心タイプじゃないし。陰湿というか、そういうタイプは人力舎が合ってると思う」って。
阿部: ただ、親に養成所の話をしたら「大学は出てほしい」と言われました。それで、友達の親も同じ意見だったので「じゃあ一回大学行こう」となって通い始めたんです。けど、大学生活で現実が見え始めたのか、友人は大学2年のときには芸人への熱が冷めていました。
――阿部さんだけは熱が冷めなかったと。
阿部: 熱っていうよりは、何か「芸人になるんだろうな」っていう4年間だったので。しかも、別の友達からも一緒に芸人やらないか誘われてたんです。それもあって「もしかしておれ、何かもってんのかな?」と少し信じてました。親にも「芸人になる」と言っちゃってた手前、後には引けないというのも。
ジャンプ: でもお父さん知らなかったんだよね、芸人やってること。
――えっ?
阿部: そうですね。2023年の2月まで、13年間芸人やってることを内緒にしてました。母親には言ってたけど、父が厳格な人だったので言えなくて。
――13年越しのカミングアウト…どんな感じで打ち明けたんですか?
阿部: ナイツさんのラジオ番組の企画で、収録中に父に電話することになったんです。電波が干渉するとかなんとかで、僕の携帯は電源を切ってラジオ局の携帯から。かけた時は電話に出ず、あとから折り返しでかかってきました。「おれマサキ」「実は芸人やってたんだよ」って伝えても「わかった、わかった」しか言わなくて。なんか変だなと思ったら、オレオレ詐欺だと思い込んでたみたいです。
ジャンプ: どういうオレオレ詐欺だよって。
阿部: これはいかん、とスタッフさんに許可をもらって自分のスマホの電源入れたら、めっちゃ連絡来てて。「本当にお前か?」って確かめるための電話が。そこでようやく父と会話できて、「実は芸人やってるんだ」と伝えました。それで、スタッフさんから「一応放送したいからお父さんに許可取ってほしい」という話になって。父に、今のやりとりをラジオで使っていいかと聞いたら「お前のネタに俺を使うな」とハッキリ断られました。
ジャンプ: 「ピンポンパンポン。この後、阿部さんのお父さんと電話しましたが承諾を得られなかったのでカットされます」って。
――厳しい展開…ラジオで告白したあと、直接二人で話す機会はありましたか?
阿部: 次の収録までに、エピソード作りも兼ねて会いに行きました。僕も35歳を超えていたので「今更この歳で親がどうこう言うのも違うだろう」とそれ以上は何も言わず。黙っていて申し訳ない気持ちもありますが、父に打ち明けたあとから仕事が少しずつ増えたので、心配させる期間が短かったと考えればそこはよかったのかなと思います。
ジャンプ: 悲しいことに、テレビに出れてないからバレないっていう。
阿部: 今ではめちゃめちゃ応援してくれてます。「次テレビ出るときは教えろ」と言われてたので「おもしろ荘出るよ」と伝えたんです。そしたら、年明けに実家に帰ったとき、母から「お父さんが親戚一同に連絡してたよ」って言ってました。
ジャンプ: これが世に言う「ショッキングパパ事件」です。
阿部: クッキングパパみたいに言うなよ!
――めでたしめでたし…じゃなくて、13年間秘密にしてたの、結構ヤバいっすね。
ジャンプ: 阿部さんはですね、秘密主義者なんですよ。昔、阿部さんが同期の女芸人と同棲してたことがあったんですけど、僕だけ知らなくて。同期で一番ハブられてそうなやつと二人で飯食いにいった時に「そういえば阿部ちゃん同棲してるんでしょ?」って知らされた時はめちゃくちゃショックでした。
阿部: あったね〜
ジャンプ: その女の子と二人で帰るときがあって、「こんなとこ見られたら付き合ってるって勘違いされるかもね」とか言ってて。まんざらでもねぇなとか思ってたら、まさか相方と同棲してるとは。嘘だろ!って。女なんて信じらんねぇよ!ってなっちゃいましたね。
阿部: これに関しては、ジャンプさんには「言うだけ無駄だ」って思う瞬間があって。コンビとして上手くいってなかった時、一度「腹を割って話そう」と真面目に呼び出したことがあったんです。そしたら開口一番「阿部さんの恋バナ、聞かせてもらっていいすか」ですよ。まじでこいつヤバいやつだと思って、そこから「この人には何か話しても意味ないな」と思って自分のことを話さなくなりました。
ジャンプ: (静かに崩れ落ちる)
阿部: だから秘密主義というか「ジャンプさんには話してない」はあるかもです。
ジャンプ: こんな僕に長年付き合ってくれてるところに感謝です。感謝にエイト。
コンビ結成の理由は「阿部さんと夢の中で漫才をしていたから」
――それでは次に、お二人の出会いや最初の印象についてお聞かせください。
阿部: ジャンプさんは最初から強烈でした。一番最初の自己紹介で「どうも加藤英明と言います」「芸名はジャンプでいこうと思っています」「イメージカラーは青です」って。相当ヤバい奴がいるなって思ってました。
ジャンプ: 端的で良い自己紹介だと思いますけどね。
阿部: そのあと講師がジャンプさんに「誰か組みたい奴いないのか?」って聞いたんです。そしたら僕の方を指さして「阿部さんと組みたいです」って。ヤバい奴に指名されたなと。それまで一言も喋ってないんですよ?マジで意味がわからなかったです。
ジャンプ: 夢に出てきたんですよ。阿部さんと出会って数日後くらいに。夢の中で漫才してましたね。これは運命だと思って「阿部さんと組みたいです」って言ったんですけど、あっちは夢も何も見ていないですからめちゃくちゃキモがられました。世にいう『ドリカム事件』ですね。
阿部: キモいというか怖いですよね。ダンスの授業でも一人だけタンクトップで踊ってたし…
ジャンプ: (ぼそぼそと)ドリカム事件、ドリームズカムトゥルー。夢が現実にね。
阿部: うるせぇよ!
ジャンプ: 何度でも何度でも。へっへっへ、ドリカム事件。
阿部: まぁヤバい奴だなと思ったんですけど、僕も組む人がいなかったので、とりあえずお試しで組んでみることにしました。そこからなんだかんだ14年ですね。
ジャンプ: 阿部さん的には、最初の養成所ライブで順位が低かったので、早々に解消しようと思ってたみたいです。
阿部: そう、話を切り出そうと思ったら、「宇宙人とブラックホールとかどうかな?」って新しいネタを持ってきたんですよ。あ、僕が自己紹介で学生時代にブラックホールについて論文を書いてた話を覚えてて、それで提案してきてるのかなと。そこで踏みとどまったところはありますね。


――じぐざぐさんと言えばダジャレですが、今現在、お互いが最も気に入ってるダジャレを教えてください。
ジャンプ: 僕は「ヴィトンがヴィットんだ」が本当に秀逸だと思ってます。「ふとんがふっとんだ」の知名度を活かした高度なテクニックが効いてて。
阿部: 「ヴィットんだ」が意味わからないから!笑
ジャンプ: 崩すくらいがちょうどいいんです。「ヴィットんだ」と聞いて、何言ってるか分からない感じが逆にいい。あと僕が好きなのは「BUMP OF 夜勤」。良くないですか?BUMP OF 夜勤。阿部さんは全然採用してくれないけど。
阿部: 使い勝手が悪いから。僕は「ハーマイ鬼」というのが好きでした。「赤鬼かな? 青鬼かな? 正解は…ハーマイ鬼!」ってボケがあって。とんでもない大喜利だなと思っちゃって、初めて聞いたときは腹抱えて笑いました。一番笑ったダジャレかもしれません。
――(ハーマイ鬼こそいつ使うんだろう…)。ジャンプさんのダジャレって、安易な下ネタが無くていいなと思います。
ジャンプ: 下ネタはですね、あえて封印してるんです。以前、何を言ってもウケるライブがあって、調子に乗って下ネタのダジャレをやったら会場中が静まり返って…。
阿部: 笑えないんでしょうね、見た目的に。僕らには下ネタが合わないんだなと痛感しました。
ダジャレの「納品」と「製品化」。ネタ作りは分業制
――ネタづくりに関しては、やっぱり気に入ったダジャレを軸に、という感じでしょうか?
ジャンプ: そうですね。僕がやりたいダジャレを考えて、それを阿部さんに納品して漫才の形に製品化してもらうスタイルでやっています。
阿部: ジャンプさんのダジャレを核に、僕が全体の構成や流れを作り上げる形です。
――分業制なんですね。
ジャンプ: 以前は僕がネタの流れも提案してたんですけど、ダジャレを言いたい気持ちが強すぎて、フリや会話の構成がボロボロで。
阿部: そう、ジャンプさんがやりたいことを持ってきてくれるのはいいんですけど、それを直す作業が毎回大変で…。正直、ストレスでした。
ジャンプ: 阿部さんにお任せする部分も多いですけど、それでも以前よりお互いの負担が減ってる感じがします。あと、自分が納得できるダジャレじゃないとやりたくないので、そこはちゃんとこだわって納品してます。
阿部: ジャンプさんの「これをやりたい!」という気持ちを尊重するのが僕の役割かなと。無理やりやらせても面白くならないですから。
――こだわりながらもお互いを尊重しつつ。すごく良い関係だと思います。
ジャンプ: ダジャレって、言ってしまえば言葉遊びなんですけど、ただの遊びじゃなくて、自分の体に馴染む感覚が必要なんです。そうじゃないと、ただのギャグになっちゃう気がするので。面白い言葉を言えばいいってわけじゃなくて「心技体」が揃ってないとウケないと思うんです。
阿部: 小難しいこと言ってますけど、コンビとして違和感が伝わるようなネタを作っていけたらと思います。変な服を着たサングラスの大男が淡々とダジャレを言って、それに対して自分が対応する様子が「じぐざぐ」の売りだと思うので。

目指すは椎名桔平さんの公認芸人
――2019年のM-1グランプリ準々決勝進出をきっかけに、一気にメディアで注目されはじめた印象ですが、その頃の心境をお聞かせください。
ジャンプ: 最初はただただラッキーだなと思ってました。振り回されてる感じで、売れてる実感なんて全然なくて。でも、この5年でいろんな経験を積んで「どうやって世の中に自分たちを知ってもらおうか」を考えるようになりました。
阿部: 僕は最初テレビに出たとき、注目されていなかった自分が少しでも認められた感じがして、すごく嬉しかったんです。でも、地下ライブとテレビの世界は全然違うんですよね。知らない大人たちや、画面越しでしか見たことのない人たちと一緒に仕事をするのは戸惑いばかりでした。まわりの芸人と比べても順応できなくて。結局、それが定着できない理由だと思います。
――注目されてテレビに出れるようになっても、そこからが大変だという。
阿部: そうですね。逆に「テレビに出た」というのがプレッシャーになって、良いネタが作れない時期が続きました。周りの人たちがどんどん成功していくのを見て焦ったりもして…。でも、M-1で2年連続良いところまでいけて、少しずつテレビにも呼ばれるようになりました。4年前の失敗を繰り返さないよう、今は気を引き締めて頑張っています。
――ありがとうございます。最後に、今後の展望をお願いします。
ジャンプ: 世の中のダジャレ好きおじさんたちの希望の星になりたいですね。天下を取るとかじゃなくて「この人が出てると何か楽しいな」って思ってもらえるような。そんな存在になりたいです。あとは、街中で指をさされるくらいには売れたいです。
阿部: 僕はやっぱり「面白い」と思ってもらいたいです。正直、まだ具体的な目標や理想の芸人像が定まっていないんですけど、自分に合ったスタイルを模索し続けたいです。コンビとしては、ロケ番組に出てみたいっていう話はしています。
ジャンプ: 『モヤさま』みたいな街ブラ番組、出たいですねぇ。地元の人と交流しながら、みんなでニヤニヤ笑える感じのやつ。あとは、椎名桔平さんと共演して「公認芸人」として活躍したいです。
――それが見れたら最高に嬉しいですね!
ジャンプ: (食い気味で)嬉椎名桔平です!ありがとうございますー

【編集後記】
コンビ名を付けるとき、「英語やカタカナはかっこつけすぎ」「やわらかい名前が良い」というジャンプさんの強いこだわりがあったため話が全くまとまらなかったそうで。そんなある日、アニメ『忍空』の主題歌の一節「ZIG ZAG 迷い続けてる」に心を惹かれて、コンビ名を「じぐざぐ」に。濁点だらけで少しもやわらかくない名前だが、そんなジャンプさんの適当さと阿部さんの寛容さこそが、魅力のひとつなのかもしれない。
