分析の余地を与えない【バカバカしさ】の応酬
日本の西側で芽生えた、
“芸人”という夢
――芸人さんになるまでのことについて、教えてください。
てんこ盛り男(以下てんこ): 中学のとき、好きな女のコの気を引くために、文化祭や送別会でミニコントや漫才を披露したのがネタを書いた最初ですね。京都の大学に進学し、そこで出会ったやつとコンビを組んで、卒業後ふたりでNSC(吉本総合芸能学院)に行きました。でも、相方は劇団四季へ行くために辞めて、僕も半年ちょっとで辞めました。同期だったフースーヤや天才ピアニストに覚悟の違いを見せつけられましたね。
――具体的にどんなところに“覚悟”を感じたんですか?
てんこ: フースーヤの谷口は、ラッキィ池田さんが講師の「恥を捨てる授業」(通称)で靴を食べだして別次元におもしろかったし、天才ピアニストの竹内さんはコンビを解散してる間もネタを書き続けてたし…当時の僕にはまだそんな覚悟がなかったです。
――自分自身をしっかり俯瞰で見られていたんですね。はるのぶさんは大阪のご出身ですよね?
はるのぶ: はい。人を笑かすのは好きやったんですけど、子どものころは特に芸人になりたいと思っていたわけではないです。中学の同級生に赤もみじの村田がいて、そいつが台本書いてみんなで文化祭で劇をやって…くらいで。高校は男子校みたいな工業高校で、ずっと鉄のことを学んで、その反動で大阪の『神戸屋』っていうパン屋さんに就職しました。硬いものから究極にやわらかいものを求めて。そこで4年働きました。「ロール」「ドーナツ」「メロン」「バラエティ」って4つのグループに分かれてて、僕は「バラエティ」に所属してました。
てんこ: 顔で「バラエティ」に選ばれたな。
はるのぶ: なんでやねん(笑)。いわゆる惣菜パンですね。その成形スタッフで。パンってすごい繊細で、新商品のサンプルひとつ作るのもめちゃくちゃ時間がかかるし大変なんですよ。働くうちにいろいろ見えてきて、今後の人生を考えたら「お笑いやりたい!」ってなって。さっき言った中学の同級生で芸人になった村田に電話して教えてもらったり、いろんな養成所のオープンキャンパスに行ったり…で、人力舎にしました。
人力舎養成所時代、『M-1』1回戦当日の出会い
――上京して人力舎の養成所でおふたりは出会うわけですね。第一印象はどんな感じでしたか?
はるのぶ: 僕は授業が終わったらみんなで飲みに行くような「火木土クラス」で、てんこ盛り男はバチバチ系の「月水金クラス」ってところでした。
てんこ: 僕は「イリーガル」っていうトリオを組んでて、「月水金クラス」のライブで1位を獲ってたんです。2017年『M-1』の1回戦当日、養成所でネタ合わせしてたら、はるのぶの当時のコンビ「リバプール」がやってきて、なぜか一方的にネタを見せられました。そのあと、僕らトリオは「全然おもしろくなかったな」って言いながら『M-1』の会場にむかって(笑)。それが第一印象でしたね。
はるのぶ: リバプールは1回戦でしっかり落ちました(笑)。
てんこ: 僕らイリーガルは2回戦に進んで。でもなんか違うってなって、2回戦の結果を待たず、解散しました。
――それからどうやっておふたりはコンビに?
てんこ: そのあと僕はまた別のコンビを組んで。でも元々関西で過ごしたり、笑い飯さんが大好きなのもあって、その人の人間性から出てくる漫才がやりたくて。鋭いレイピアみたいなワードセンスで笑かすツッコミが多いなか、はるのぶは「なんでやねん」っていう鈍器みたいなシンプルなツッコミでやってて(笑)、いいなと。
はるのぶ: 僕は「なんでやねーん」「どないやねーん」を振り回してました(笑)。
てんこ: 本当はそれで笑いがとれたらすごいと思うんですよ。それにはるのぶは華があるんですよね。ただ、はるのぶがいたリバプールではそれが生かされてなくて。お互いのコンビが解散しそうなときに、僕からはるのぶに「一緒に組もう」と声をかけました。
みんなが捨てるボケを極めたい
――おしどり大名さんのネタって、いい意味でめちゃくちゃバカバカしいですよね(笑)。こだわりについて教えてください。
てんこ: こだわりと言ったらそこですかね。いかに“つくりもの”じゃなく見せられるか。笑い飯さんが『M-1』でやった「ハッピーバースデー」も、技術面はもちろんすごいんですけど、それを感じさせないおふたりのバカバカしさがあるじゃないですか。僕はみんなが捨てたようなボケを拾うのが好きですね。
――“みんなが捨てたようなボケ”?
てんこ: 例えば“カンチョー”とかって、しょうもないからみんな捨ててるけど、僕はそれをどれだけ膨らませられるかを考えるのが好きですね。そうすると、みんなとかぶらないですし。“しょうもないから捨ててるボケ”と“本当にやらないほうがいいから捨ててるボケ”があって、その見極めは大事ですけど。
――コント『青春第二ボタン戦争』の女子高生役のはるのぶさんの破壊力もすごいですよね(笑)。
はるのぶ: メイクはそんなにしてないんですけどね。骨格でブサイクになってるみたいです。
てんこ: なのに、養成所時代、RADWIMPSの野田洋次郎さんみたいな私服だったよな(笑)?
はるのぶ: そうそう。僕、野田さんめっちゃ好きで。ハットかぶってワイドパンツはいて。
てんこ: はるのぶは根が明るいんで、コミカルなイジれるブサイクなのが今の時代に貴重だなと思います。
バカバカしさと主義主張
――ご自身たちの好きなネタはなんですか?
てんこ: 今回『出囃子』に載せたネタとは全然違うんですが、「釣り人の恋」っていう社会への挑戦というか、主義主張を入れたネタも好きです。ニーナ・シモンの曲を流して一切セリフはなしのコントです。
――へえ!
てんこ: はるのぶが学ランと眼鏡の真面目な学生役で釣りをしていて、そこに僕が上半身裸にオイルをテカテカに塗って、ホットパンツにサスペンダー姿で登場する。で、学生を見ながらイヤらしくりんごをかじる。セリフはないけど、暗にそういう恋を描いているという。これで笑ってほしいとか、ジェンダー問題に意見してるとかじゃなく、「あるよね」という事実を描きたいんです。僕がお笑いを使ってやりたいことのひとつでもあります。
はるのぶ: 僕はそこまでのメッセージがあるとは知らなかったです(笑)。
てんこ: 東京03さんのコントって、角田さんがとんでもないことを言っているように見せて、ちょっとみんなが思ってることだから見ている側は笑っちゃう。笑いという方法で、直接的じゃなく世の中の偽善の皮を剥がすというか。僕らは僕らのやりかたで、そういうネタもやりたいんです。
――もっともっとネタを観たくなりました! 最後にメッセージをお願いします。
はるのぶ: なにも考えずに笑ってください。明るい気持ちになれると思います!
てんこ: お金も時間も無理のない範囲で観てください。僕らもお客さんもお互い自分たちのために! win-winでいきましょう!
【編集後記/by担当ライター小林】
「パワフルなおふたりには、ロケではなくスタジオ撮影に挑戦していただきました。 カメラマンの難易度高めなポーズリクエストに対し照れるてんこ盛り男さん、優しくリードするはるのぶさん。素な表情に注目です!」