【舞台裏】松尾アトム前派出所の浅草60分漫談「どてさく5」に密着。

2022.09.13
コラム

最近よく、お笑いのライブを観に行く。

「出囃子-DEBAYASHI-の仕事で」と言ってしまえばそれまでだが、お笑いのライブを観ているときは、すっかり仕事を忘れて楽しんでしまっている。テレビで観るお笑いはもちろん面白い。けど今は、とにかく現場の”生で味わうお笑いの魅力”にとり憑かれつつある。

そんな中、仲良くさせていただいている松尾アトム前派出所さんから連絡があった。

「今度浅草の東洋館でライブやるんで見に来てくださいよ!」

東洋館?ってあの浅草東洋館!?

ーー芸人の聖地、東洋館。
ビートたけしの下積み時代を描いた名作『浅草キッド』を観てから、ずっと東洋館へ行ってみたいと思っていた。深見さんにタップを教わるエレベーターとかあるのかな。うわー楽しみ!

6月9日17:00。浮かれながら当日をむかえ、観光客のように雷門の前で待ち合わせ。

松尾さんは普段、長野の実家でリンゴ農家として働いているため、ライブがあるときだけ東京に来る「半農半芸」スタイルの芸人だ。会える機会も少ない。せっかくだから「浅草東洋館の舞台裏」と銘打って、1日密着ドキュメントを撮ろう。そう思い、事前に許可を得てカメラを回していた。

密着系のドキュメントでよく見る「おはようございます〜」から始まるあの感じを撮ろう。素人ながら頭の中で構成を考えていた。しかし、そんな台本はのっけから崩された。


松尾

すいません、今日ちょっとボディガード付いてるんで。


たしかにボディガードらしき黒服がいる!ということで始まりました「松尾アトム前派出所の浅草60分漫談、裏側に密着!」、スタートです。

これぞ松尾節、これぞ半農半芸。

舞台であろうがなかろうが、カメラがあろうがなかろうが、とにかく周りの人を笑わせるために仕掛けてくる。松尾さんはそういう人だ。

東洋館へ向かう道中も、わざわざ足を止めてボケをかましてくる。修学旅行生のようですごく楽しそう。


松尾

この雷門の提灯、スポっと落ちて捕まっちゃうから気をつけてください!


松尾

今日の台本、ドイツ語で書かれてるんですよ、お医者さんのカルテみたいに。その台本読んで笑い転げて、そのまま転がりながら上京してきました。ワハハハ〜って。え?ドイツ語?読めないですよ。書くことはできますけどね、えぇ。


朝5時に起き、長野で農薬散布。そして夕方から浅草で漫談。まさに半農半芸。すごいことを当たり前のようにやっているけど、そう”見せてる”のか。

東洋館に到着するとカメラが待ち構えていた。なんと、「長野朝日放送」の番組「いいね!信州スゴヂカラ」さんが、松尾さんの密着ドキュメント番組をつくるために1年間追い続けている最中らしい。え、1年間?


松尾

今日はドキュメントが渋滞してますね。

 
息を吸って吐くような言い回しを残して、松尾さんは東洋館の階段を上っていった。

ボディガードの正体はセクシー川田

今日は松尾さん主催の単独公演。”単独公演”という文字だけ見ると仰々しく感じるが、実際のところは全然違った。舞台上も舞台裏も、なにも準備されていない。むしろ誰もいない。そう、自分たちでこれから準備をするのだ。

松尾さんの単独公演「どてさく」は今回で5回目。これまでは阿佐ヶ谷アートスペースプロットで開催されてきたが、満を持して東洋館が舞台に選ばれた。

これまでの「どてさく」同様、今回も舞台に掲げる垂れ幕を用意してきた松尾さん。しかし、今までより会場の規模が大きい。垂れ幕を吊るすにもひと苦労だ。

手伝うのはタイタンの後輩芸人・まんじゅう大帝国。それともうひとり、さっきからずっと視界に入る謎のボディガード。もう限界だ。たまらず本人に話を聞くと「射精漫談家のセクシー川田」として活動する芸人さんだと判明する。強いのは見た目だけじゃなかった。

「農作業で乗り慣れてるから」と、馬鹿デカイ脚立に乗って準備を進める松尾さん(写真では見えないけど脚立の上に居ます。)芸人の世界は上下関係が厳しいイメージだが、こうやって先輩後輩関係なく率先して汗水垂らせる大人は格好良い。

結局1時間近くかけて垂れ幕のセッティングが完了。まわりは「曲がってますね」「もう少し右!」と指示を出していただけなもんで、汗だくになっていたのは松尾さんだけだった。お疲れさまです。

浅草キッド襲来!?東洋館でまさかのキヨシに遭遇

ひと仕事を終えて屋上で休憩。浅草の風が気持ちいい。風を感じながら談笑していると、二人の女性が挨拶に来た。日本エレキテル連合の橋本さんと中野さんだ。情報として知ってはいたけど、いざ直接お会いすると、本当に夫婦なんだなと実感する。

そう、松尾さんと中野さんは2020年に「交際0日」で結婚して世間を賑わせた。松尾さんが猛アタックし続けた結果、中野さんから突然逆プロポーズしたのだとか。

はじめて松尾さんとお会いしたときに交際0日婚について聞くと「ね、自分でもいまだに信じられないですよ。だからたまにWikipediaで確認してるんです」と照れ隠しの冗談をこぼしていた。

松尾さんは休憩中もずーっと喋っていた。本当に喋るのが好きなんだなぁと思っていたら、後輩から「松尾さんは普段長野のりんご畑でひとりだから、東京で人がいっぱい居て嬉しいんですよね?」とイジられていた。そう言われた松尾さんもなんだか嬉しそうに笑っていた。

屋上での休憩が終わり、本番が近づいてきた。

舞台裏で段取りを確認していると、男性がひとりフラッと現れる。密着のカメラに気付くと「ん?髪セットした方がいい?」とまわりを笑わせていた。

その方が去ってから誰だったのかを聞いたら、ナイツの土屋さんだった。

え、土屋さん!映画『浅草キッド』でキヨシ役がドハマリしていたあの土屋さん!仕事でもなんでもなく、ただただ荷物を取りに来ただけだったそうで。浅草が過ぎるぜ。ちなみにこの数分前に塙さんも楽屋に来ていたらしい。浅草ァ!

FREEDOM〜漫談は、自由だ〜

開場してお客さんが入り始める。ここからは一旦撮影を止めて、客席へ移動。なんとなくまわりを見渡すと、渋いおっさんから若い女性まで、幅広い年齢層のお客さんがいる。

前方に座っているのはお年を召した2人組。先ほど受付で松尾さんと談笑していた、松尾さんの親戚の方々だ。ちなみにその談笑後、これは下ネタやりずれぇな、と苦笑いしていた。

ここでふと思う。生で漫談を観るの初めてだな。そもそも漫談ってなんだろう?

綾小路きみまろ、つぶやきシローのような「ひとりでつらつらと冗談を言って観客を笑わせるもの」という漠然としたイメージはあるけれども。開演まで少し時間もあったので、漫談について調べてみた。

<漫談-Wikipedia->
漫談家と呼ばれる演者が、立ちながらトークを行うもの・世間話、世相批判、単なるばかばかしい内容など・本筋がある話や短い話の連発・物真似(声帯模写・形態模写・声色)

解釈違いだったら大変失礼なことだが、要はなんでもアリだ。ひとりで舞台に立ち、お客さんを笑わせればそれは漫談だ。Wikipediaに書かれていることが正しければ、小島よしおやダンディ坂野も漫談家というわけだ。

堅苦しいイメージがあったけど、漫談って思ったより自由だったんだ。

松尾さんの漫談は、まさに自由そのものだった。

地元・長野県のあるあるネタを喋っていたかと思えば、お客さんが誰も知らないような人をイジり始めて。そんな全く知らない人のモノマネでショートコントをしたり。でもそれが絶妙に笑えたり。「〇〇と言ったら△△ですよね」「△△と言ったら□□なんですが」と、まるでマジカルバナナのように数珠つなぎで繰り広げられる冗談の連鎖で、あっという間に60分(正確には51分)を駆け抜けていった。圧巻です。最後はお決まり?財前直見のマイムマイムで幕を閉じた。ざーいざーいざーいざーい♪ざいぜっんなおみ♪

文字で読んでも何のことだかさっぱり分からないかもしれないけど、自由さだけは伝わったはずだ。
当日のライブレポはこちらの記事で書かれているので、もしよければご覧ください。
>>【ライブレポ】「どてさく5」に行ってきました。

▼松尾アトム前派出所 前略、土の上より 夏(いいね!信州スゴヂカラ)

漫談家を地で行く生粋の芸人・松尾アトム前派出所

終演後、受付ロビーにはたくさんの人が集まっていた。物販で売られていたりんごジュースは完売し、松尾さんの名言が詰まった語録も飛ぶように売れていた。

ここにいる人は、みんな松尾さんのことが好きなんだ。なんだかすごくあたたかい空間。一緒に写真を撮ったりサインを書いたりしている間も、松尾さんはずっと喋っている。先程60分(正確には51分)喋り倒したばかりなのに。

ひと段落し、松尾さんに話を聞いた。


松尾

途中でネタを飛ばしちゃって。そしたら声が聞こえてきたんです。『次は坂本龍馬のネタだよ』って。深見千三郎師匠とかビートたけしさんとか、浅草の名人の声が聞こえてきましたね。


たけしさん死んでねぇな?と思いつつ、今日密着して一番感じたのは松尾さんがずっと喋っていたこと。移動中も準備中も休憩中も。ずーっと喋っていた。

「漫談家は、15秒に1回は冗談を言って笑わせるものだ」

松尾さんは今日の舞台でそう言っていた。まんま松尾さんのことじゃないですか。
そんな彼のまわりには常に人が集まっていたし、みんな笑顔だった。人としてすごく愛されているんだなぁ、と深く感じた。

最後に、物販で飛ぶように売れていた松尾さんの名言が詰まった語録。自費出版らしいのだけど、何を間違えたのかいくら売れても絶対に黒字にならないらしい。


松尾

売れても赤字が減るだけなんだよ。ハハハッ!

 
悲しいけどなんだかおかしい自虐ネタで仲間の笑いを誘っていた。こういう不器用で少し抜けているところも、松尾さんの魅力のひとつなのかもしれない。

本当に、出番であろうがなかろうが笑わせるために仕掛けてくる。松尾さんはそういう人だ。

いやぁ、良い1日だった!初めての浅草東洋館。初めての漫談。大満足でした。松尾さん、楽しい時間をありがとうございました。

そういえば黒サングラスのセクシー川田さん、結局本番で出てこなかったな。もしかしてボケじゃなくて本当にボディガードだったのか。まぁいいや、せっかく浅草まで来たし、もつ煮でも食って帰ろう。

おしまい

▼この日舞台裏映像が見れるのはココだけ!

この記事を書いた芸人
「出囃子-DEBAYASHI-」
管理人(運営事務局)